雲が厚く垂れこめた日曜の朝、急行ぶらり鎌倉号がアジサイの咲く鎌倉へ向かいます。
急行ぶらり鎌倉号は常磐線いわき駅と横須賀線鎌倉駅間を武蔵野線経由で結んでいた臨時急行電車で、 初夏のアジサイ、秋の紅葉や初詣の時期に合わせて運転されていました。
この列車に使われていた車両は、勝田車両センターに配置されていた6両編成の485系(K60編成)で、先頭車は1974年北海道向けに製造された1500番台のグループです。 485系の基本設計に加え、北海道への配備にあたり耐雪ブレーキを備え、床下機器箱に凍結防止用電熱ヒーター、粉雪浸入防止シール類を追加するなどの特別耐寒耐雪設計が施されました。 運転台上に追加された2灯の前照灯が外観上の特徴です。
485系1500番台の車両は、1975年からエル特急いしかりとして運転が開始されたものの、もともと本州での使用を前提に設計された車両にとって北海道の冬は厳しく、遅れや運休が相次ぎました。 粉雪侵入による電気系統可動部品の絶縁不良や、客室扉の動作不良などが主な原因と言われています。 無接点制御を取り入れるなど、当初から北海道向けに設計された711系電車が順調に運転を続けていたのとは対照的に、 485系1500番台は電動車1ユニットを予備車に回して4両編成とした上で、運転本数を約半分に間引くなどの苦しい対応を強いられました。 結局これらの不具合が根本的には解決されないまま、新しい北海道向け特急電車(781系)の配置が完了した1980年に、485系1500番台は全車が青森運転所に転出しました。
その後多少の経緯を経て485系1500番台は新潟地区に集結し、リニューアルされて特急北越、特急いなほや快速列車として活躍しましたが、電動車は老朽化のため2002年の春までに全て廃車されています。 8両の先頭車(クハ481-1500番台)はそれぞれ違った余生を送りますが、2005年12月25日に起こったJR羽越本線脱線事故で、先頭を走っていたクハ481-3506(クハ481-1506から改造)を失うなど、悲しい話題もありました。
国鉄時代の塗色に戻され、特急北越の先頭車として活躍するクハ481-1508。
そんな中で、勝田車両センターに配置されたクハ481-1504、クハ481-1505の2両の先頭車は、他の485系電動車と6両編成を組み、定期運用の無い臨時列車や団体用として2013年まで活躍しました。 その臨時列車の代表が、今回紹介した急行ぶらり鎌倉号です。 いわき駅から延々常磐線を南下し、交直のジャンクションを超えて武蔵野線に入り鎌倉までという経路は、普段通ることの出来ない貨物線を通ったりする大変興味深いものでした。 先頭車には粋な書体のぶらり鎌倉号専用のヘッドマークも用意され、485系1500番台の晩年の活躍に花を添えていたように思います。 上野東京ラインが開業した2015年からは、ぶらり横浜・鎌倉号として上野・東京経由で運転されていますが、485系の姿はありません。 毎年、アジサイの咲くこの時期になると思い出す列車です。